終わった話

経過した事物

2021.03.13

いつもより遅い時間に散歩に出たらなぜか動物とよく出会った。

薄茶色の雀が鈴生りに留っている電線の下に真っ白なトキがいて、近寄ったら私の周りを半旋回して低い位置で飛んでいった。

すこし歩いて沢を下ったあたりでまた合流したが、邪魔してすまないなと思ったのでもう顔は見ない。

ご主人の進行方向に逆らって遠い位置から目を合わせてくれた柴犬もいて、すれ違うタイミングでちょっと撫でさせてもらった。

普段犬と接する機会はあまりないので、じゃれかかってくる前脚に触れるたびに思っていたより随分硬いなと思う。

記憶の中の人間の腕とはまったく異なる。それでも同じ機能を有していることが不思議だ。

 

灰色の空の下、水仙の蕾も桜の蕾もふくふくと膨らんでいる。

四番目の温になったら内側の色々をひらいて咲くのだろうか。

この寒がニ番目でなく三番目だと信じることはこの地に根付く信仰だなと思う。

実際には五番目だったり八番目だったりするのかもしれないけれども、いつか咲くことを信じる心の動きはどの季節をも生き抜く力になる。

 

大気が寝ぼけているので、いくら歩いても目が覚めない。

折り畳み傘を手に持って歩く老人の姿を天気予報として家に帰った。

窓の外で雨はどんどん強くなり、雪のように積もる代わりにコンクリートの灰色を濃黒にしていく。

黒々としていく刻々に、心身が益々だるくなっていく。

生きていること以外には特段何の意味もない日だ。

自分のベッドに自分の居場所を見つけて、それからはずっとそこにいた。