終わった話

経過した事物

2021.03.01

起きた瞬間から不調の日。
職場の気の置ける人と積極的に雑談するなどして半ば回復に成功していたが、努力の甲斐も虚しく由々しき事態が発生した。


以前一緒に住んでいた人から連絡があり、彼の家に残してしまっていた私物を受け取りに行くことになった。
2020.11.10と反対のシチュエーション。あの時と違って旧家に向かう道中で運転しながら泣くほどではないが、かすかな動悸と眩暈がする。
懐かしい駐車場に車を停めて、駐輪場の手すりに引っかけられていた荷物を受け取って、中身を確認したその瞬間、途方もない感傷に襲われてその場から動けなくなった。
自分が呆然としているのか憮然としているのかもわからずにしばらくの間ぼんやりと立ち尽くし、気がついたら鮮烈に怒っていた。
昨日まではすっかり老生したつもりでいたのに、自分の中にまだこんな激情が眠っていたことに驚く。すげーな恋。ファック恋。ゲーム障害と同程度の精神疾患でしょこれは。
ハンドルを手放してこの街にある酒を全部飲み干しに行きたい気分だったが、強い意志をもって自宅に帰ってきて日課の歩行運動をした。
膝関節あたりから滲み出る怒りに任せてデタラメに歩いていたら足の小指が痛くなってきて、すこし冷静になる。それでも、あの感傷も、この怒りも、ちっとも言語化できない。湧き出る悪態の底に何があるのか、掴む事ができない。
山のふもとのコンビニのイートインスペースでぬるいカフェラテを飲みながら、追って送られてきたLINEに対して初稿の「ハァ?」からしばらくの推敲を重ね、第何十稿目かの文面を返信してもう何も考えないことにして山に帰った。

失恋をきっかけに、恋愛に対してかなり失望してしまった。
恋愛感情は人間が抱く感情の中で(最も鮮烈で)最も脆弱なもので、それ故に恋愛関係は(最も鮮烈で)最も脆弱な人間関係だ(と考えるようになった)。
だから、本当に大切な人を大切にするためにはむしろ持たない方がいい要素だと思い、なるべく遠ざけて(やり)過ごしている。
それでも荷物を受け取って動揺したのは、私物の他に餞別と称して添えられていた品々を見て、たしかに存在したなめらかな日々を思い出したからだと思う。
たしかに、もっと愛のことを信じていた時期もあり、それでしか手に入れ得ない幸福もあった。

悶々とした気分で帰宅したが、シャワーを浴びるついでにシャワーベッドを持って風呂場で爆踊りしたらサッパリしてスッキリした。
風呂場で踊ると裸足の指先が強化プラスチックのぼこぼこした床にひっかかる感触がおもしろい。皆さんにもおすすめです。
味噌汁を作ってごはんを解凍して肉野菜炒めを作って、モリモリ食べてスヤスヤ眠った。
随分と頼もしくなったものだ、己の肉体と自由意志よ。