終わった話

経過した事物

2021.02.22


海底で目覚めたような気分。光る水面の上に揺らぐ現実が見える。
幹線道路を泳いで渡るように運転して職場に辿り着き、溺れた声で「おはようございます」を言った。
私は疲れてくるとあからさまに声が出なくなるらしく、発話するだけでその日の調子がバレてしまうのが社会人として恥ずかしい。
無理せず無難にやるつもりだったがそれでもしっかりミスをして、だるい身体を引きずってリカバリする羽目になった。こんな日もある。だめなときはなにをやってもだめだ。

 

私が職場であたふたしている間に気温はかなり上がっていたようで、退勤して自宅のある山に帰ってくるとあちらこちらから土や草の匂いがたちのぼっていた。
顔を向ける方向ごとに違う匂いがするので、鼻先に生き物の気配を感じる。すわ、山から春が降りてくる予感。おおきくてぬとぬとした獣の姿を想像するのは、きっと夏に見ていたもののけ姫の影響。きっとすぐにはここまで辿り着かないだろうけれども、じわりじわりと近付いてくる。

 

祝前日なので友人と通話して痛飲した。
酒で現実認識が曖昧になっている時だけは安心して自分の感覚に素直になれる。自分にも他人にも気さくになれる。
もしも常にほのかに酔っ払っていられたら、そのほうがかえってうまくやれるのかもしれない、とたまに考える。

素面で見つめるには現実は波立ちすぎている。