終わった話

経過した事物

2021.02.17

別人になりたくなったので、髪を切ってもらいに行った。
このところ、髪を切り終わった後に鏡の中に知らない人が出現するのがおもしろくて、美容室に来るたびに脈絡のない髪型ばかり頼んでしまう。
物心ついてからはずっと前髪を流していたんだけど、バッツリパッツンにしてください、と言ってそのようにしてもらう。
このアバターでもうまくやれるかしら。

 

行きつけの美容室には「先生」と呼ばれる72歳のオーナーがいて、髪を切ってもらった後にいつも一杯のコーヒーとちょっとのお喋りをしてくれる。
先生の口癖は「いまこの人生を顧みてみると」と、「流れの中で」で、泰然自若、という言葉が似合う風体をなさっている。
先生とお話すると、「もう終わりでいい」と思っているときは大抵「どうせこの先も同じだ」と考えているときだ、とわかる。先生と先生が伴ってきた人生は「そうではない」ということを教えてくれる。自分の若くて狭い視野を自覚できる。その先の道程に目を向けられる。
今日は、「何かひとつ得るときは何かひとつ失う」というお話をしてくださった。
あと、五木ひろしの『山河』という曲の詞が素晴らしいということ、五木ひろしの妻がやわらかくてひらけている素敵な方だということも教えてくださった。
担当の「ジャンボ」さんは、「歯茎を見せて笑う人は裏表なく全てを話す」という持論を教えてくださった。
ここで見聞きしたことは全て心に留めておきたくなる。ここには書ききれない発露がたくさんある。

 

マクドナルドでわしわしとハンバーガーを食べながら中島らもの「砂をつかんで立ち上がれ』というエッセイを読んで、天才!と思った。
行く先々で珈琲を飲んだせいで気分が昂り、いろいろな体験を思い出しながらどれが記憶でどれが夢だか判別のつかないようなうつろな心地で寝た。