2022.11.24
霧雨で、本来ならまばゆいはずの朝日が程よく遮られて、鈍い光が窓から差し込んでいる。
夜勤明けの身体を沈めるのにはふさわしい光だ、と思って、浴槽にお湯を張った。
浴室の壁と浴槽の白が、素材が異なるから同じ白でもやや違う色をしていて、それらはまとめてすっぽりと窓から差し込むグレーにつつまれていて、見つめていてもなんの情報もなく、刺激的でなくて、綺麗で、心地がいい。
これは旅行先の温泉で朝風呂に浸かっている時と同じような気持ちだ、と思った。
時折、日常の喧騒からは全く無関係のような、台風の目のような時空間にふいにたどり着くことがある。
例えば、風に吹かれる広い草原を目の前にした時とか、近所の公園のベンチに座ったら木々が揺れて擦れる音が聞こえた時とか、その類の光景と、その類の安寧。
そんな時間ばかり追い求めていられたらいいのにと、そんな瞬間に遭遇するたびに思い直すのに、その時間のことや、それがどんな場所だったのかを、あわてふためく日常の中で私はすぐに忘れてしまう。
次にここに来られるのはいつなんだろう、と思いながら、冷えた身体をのぼせるまで湯船に浸けていた。
寝て、起きて、まだしばらくは足の先が冷たかった。
けれども、台所に立って炊事をしていたら調子を取り戻した。
とろろを擦り、にんじんを刻んで味を付け、小松菜を浅漬けにして、それら全てをタッパーに入れて保存した。
次にこのタッパーを開けるのはいつなんだろう。
仕事が忙しいと、自分の胃や冷蔵庫の中身を顧みなくなり、食べものを腐らせてしまう。
できるならば、いつだって新鮮でいたいなと思う。
いつも、風みたいに、新鮮でいたい。